ジムでもヨガスタジオでもなく、公園や商業施設の広場で、知らない人と一緒に踊る。中国の若い女性たちの運動習慣は、「一人で鍛える」から「みんなで解放する」へ少しずつ広がっています。
中国で「広場舞」と聞くと、多くの人は中高年女性が夜の広場で踊る風景を思い浮かべるかもしれません。
実際、広場舞は長いあいだ、おばさんたちの運動、近所の社交、少し騒がしいけれど中国らしい日常風景として見られてきました。けれど近年、そのイメージが少し変わっています。若い人たち、とくに若い女性たちが、公園や商業施設、大学周辺の広場で踊る姿が増えています。
これは伝統的な広場舞に若者が参加するケースもあれば、K-POPや流行曲に合わせて踊るランダムダンスのような形もあります。どちらにしても共通しているのは、踊る場所がスタジオではなく、かなり公共的な空間であることです。
日本で言えば、ジムに通うというより、週末の公園でダンスイベントに参加する感覚に近いかもしれません。しかも、そこには「うまく踊る」より、「その場に混ざる」楽しさがあります。
一人で鍛えることに、少し疲れている
若い女性の運動習慣というと、ヨガ、ピラティス、筋トレ、ランニング、パーソナルジムなどが思い浮かびます。どれも魅力的ですが、同時に少しストイックです。
体を変える。姿勢を整える。痩せる。引き締める。目標を決めて、記録して、継続する。運動が自分を管理するためのものになると、元気なときはいいのですが、疲れているときには少し重く感じることがあります。
中国の若い女性たちが公園や商業施設で踊ることに惹かれる背景には、この「管理される運動」への小さな疲れがあるように見えます。
踊ることは、もちろん運動です。でも、目的が少し違います。体型を変えるためというより、音楽に乗って気分を出す。汗をかく。笑う。知らない人と同じ振りをして、少しだけ一体感を味わう。
それは、体をよくするためだけの運動ではありません。気分を外に出すための運動です。
若者版の広場舞が生まれている
新周刊の記事では、商業施設の前や地下広場などで若者たちがランダムダンスを楽しむ様子が紹介されています。曲がランダムに流れ、知っている振付の人がその場に飛び込む。数十秒踊って、また次の曲へ移る。一回のイベントが数時間続くこともあります。
これは、従来の広場舞とは音楽も見た目も違います。K-POP、アイドル曲、流行ダンス、二次元カルチャーの空気が混ざっている。けれど構造だけを見ると、かなり広場舞に似ています。
決まった場所に集まる。音楽が流れる。知らない人同士が同じ動きをする。上手い人も初心者も同じ空間にいる。踊りながら、少しずつ顔見知りができる。
つまり、若い世代は広場舞を否定したのではなく、自分たちの音楽とファッションで作り直しているのだと思います。
「見られる怖さ」より「混ざる楽しさ」
人前で踊るのは、普通なら少し恥ずかしいことです。特に日本の感覚だと、公共の場所で踊るのはかなり勇気がいります。
でも中国の若い女性たちのランダムダンスや若者広場舞には、その恥ずかしさを薄める仕組みがあります。
まず、一人ではないこと。大勢が同時に踊るので、自分だけが注目されるわけではありません。次に、完璧でなくていいこと。知っている曲だけ参加して、分からない曲では外で見ることもできる。そして、踊る側と見る側の境目がゆるいこと。さっきまで見ていた人が、次の曲で急に入ってくる。
このゆるさが、若い女性にとって入りやすいのだと思います。
ジムやダンススクールは、入会する、予約する、お金を払う、続けるというハードルがあります。でも商業施設や公園のダンスは、もっと軽い。通りかかったついでに見ることもできるし、友人と一曲だけ踊って帰ることもできる。
運動を始めるというより、気分が合った日に混ざる。その気軽さが、今っぽいのです。
身体を「作品」ではなく「気分」に戻す
このトレンドで一番面白いのは、身体の扱い方が少し変わることです。
美容やフィットネスの文脈では、女性の身体はどうしても「見られるもの」になりがちです。細いか、引き締まっているか、姿勢がいいか、肌がきれいか。自分の身体なのに、どこか評価対象になってしまう。
でも、音楽に合わせて広場で踊る身体は、評価されるためというより、動くためにあります。
汗をかく。笑う。振りを間違える。隣の人と目が合う。曲が変わった瞬間に走って入る。そこにあるのは、完成された美しさではなく、生きている感じです。
千瓜数据の小紅書トレンドでいう「活人感」にも近いと思います。きれいに整った姿より、動いている人、熱のある人、画面の外にも生活がありそうな人に惹かれる感覚です。
若い女性たちが踊りに向かうのは、自分の身体をもう一度「気分のあるもの」として取り戻すためなのかもしれません。
年齢を超えて混ざる場所
もうひとつ、中国らしいおもしろさは、若者のダンス文化と従来の広場舞が完全に分断されていないことです。
極目新聞の記事では、済南の泉城広場で若い人たちが広場舞に参加し、チームの中に00後や大学生もいる様子が紹介されています。若い人が広場舞に入ることは、単なるネタではなく、解圧や社交の方法にもなっています。
これは日本の感覚から見ると、少し新鮮です。日本では若者文化と中高年の運動文化が分かれやすい。でも中国の広場では、年齢の違う人が同じ音楽の中にいることがある。若者はおばさんたちの踊りを面白がり、おばさんたちは若者の新しい振付を受け入れる。
もちろん、騒音や場所の使い方をめぐる問題もあります。それでも、世代が同じ空間で体を動かすことには、都市生活では珍しい温かさがあります。
日本の読者にとってのヒント
このトレンドは、「運動はもっと遊びでよくない?」というヒントになると思います。
毎日きちんと運動しなきゃ、ジムに通わなきゃ、姿勢を直さなきゃ、痩せなきゃ。そう思えば思うほど、体を動かすことが義務になります。でも本来、体を動かすことはもっと気分のいいことだったはずです。
中国の若い女性たちが公園や商業施設で踊っている姿は、その原点を思い出させてくれます。音楽がある。人がいる。少し恥ずかしい。でも、やってみると楽しい。
身体を管理するのではなく、身体で気分を逃がす。友人と話すだけでは足りない疲れを、踊って外に出す。そういう運動のあり方は、これからもっと支持されるかもしれません。
広場で踊る中国の若い女性たちは、ただ流行のダンスをしているだけではありません。彼女たちは、都市の中に一時的な解放区を作っています。そこでは、うまさより参加すること、細さより動くこと、完璧さより熱があることが大切になる。
その軽やかさは、日本の私たちにも少し欲しいものです。
