日本のLIPSと中国の小紅書、どう違うのか
日本のコスメ市場には「LIPS」というユーザー数の多い化粧品特化型SNSが存在する。98%が女性ユーザーで、18〜24歳の若年層を中心に累計会員数1,400万人以上を誇る。一方、中国には「小紅書(RED/Xiaohongshu)」があり、化粧品だけでなく、旅行・グルメ・ファッション・ライフスタイル全般をカバーする総合プラットフォームとして、月間アクティブユーザー3.5億人を擁する。
この2つのプラットフォームの違いを理解することは、越境コスメビジネスにおいて極めて重要だ。なぜなら、日本のコスメブランドが中国市場へ進出する場合、LIPSで評判の良い製品をそのまま小紅書で展開しても、全く同じ結果にはならないからだ。プラットフォームの性質とユーザーの期待値が根本的に異なる。
プラットフォーム比較:基本スペック
| 項目 | LIPS | 小紅書(RED) |
|---|---|---|
| 国内月間アクティブユーザー | 約350万人 | 約3.5億人 |
| 女性比率 | 98% | 約70% |
| 中核年齢層 | 18〜24歳(高校生・大学生) | 25〜35歳(社会人) |
| 主な機能 | コスメ口コミ・評価・EC連携 | ライフスタイル全般のソーシャルコマース |
| EC機能 | LIPSショッピングあり | 小紅書商城あり |
| 海外ユーザー | ほぼ日本国内のみ | 東南アジア・華僑にも拡大中 |
| 平均滞在時間 | 約8分/日 | 約55分/日 |
この比較から分かるように、LIPSは「コスメ専用の口コミデータベース」 であり、小紅書は「生活全般の総合メディア」 という位置づけの違いがある。
日本のコスメブランドがLIPSを活用する方法
LIPSの強み——ピュアなコスメコミュニティ
LIPSの最大の強みは、ユーザーのほぼ全員が「化粧品を買うために来ている」という購買意図の明確さにある。ユーザーの72%が「LIPSを見てからコスメを購入したことがある」と回答しており、その購入転換率は非常に高い。
LIPSでの効果的なマーケティング施策:
1. 口コミ投稿の拡散戦略 LIPSではユーザーが投稿した「リアルな口コミ」が最も信頼される。以下の要素を含む投稿が高評価を得やすい:
- 肌質の明記(脂性肌/乾燥肌/混合肌など)
- 使用期間(「1ヶ月使ってみた結果」)
- ビフォーアフター写真(同一条件・同一照明)
- テクスチャ比較(他の製品との比較写真)
2. LIPSランキング対策 LIPS内の「総合ランキング」「カテゴリ別ランキング」は、売上に直結する重要な指標。ランキング上位に入るためには、以下が必要:
- 集中的な口コミ数の増加(投稿キャンペーンの実施)
- 高評価率の維持(★4以上の評価を80%以上)
- レビュー数の急激な伸びを週単位で達成
3. アンバサダープログラム LIPS公式のアンバサダー制度を活用すれば、フォロワー1万人以上のインフルエンサーが製品をレビューする。LIPS内のエンゲージメント率は約5.4%と高く、特に化粧下地・ファンデーション・アイメイクのカテゴリで効果が高い。
LIPSの限界
一方、LIPSには以下の限界がある:
- ユーザー層が若年層に偏っている(35歳以上の利用は少ない)
- 中国市場への直接的な波及効果はほぼない
- 商品数の増加に伴い、口コミのノイズも増加傾向
- SNSとしての拡散力は小紅書に比べて弱い(純粋な口コミDBに近い)
小紅書でコスメブランドを展開する方法
小紅書の強み——「生活の検索エンジン」としての影響力
小紅書の真髄は、「コスメを見る」ではなく「生活を検索する」というユーザー行動にある。例えば「デートの時の香水は?」「20代後半のスキンケア順番」といった実用的な検索から製品が発見される。そのため、単なる商品紹介ではなく、生活シーンに紐づいたコンテンツが効果を発揮する。
小紅書で効果的なコスメコンテンツ:
1. シーン特化型ノート
- 「日本のOLが選ぶオフィスコスメ5選」
- 「彼氏との旅行に持っていくメイクポーチの中身」
- 「肌荒れした時のスペシャルケアルーティン」
これらは製品名を前面に出すのではなく、状況・体験を中心に据えたコンテンツになる。小紅書ユーザーは製品名で検索する以上に、このようなシーンで検索している。
2. 「日本発」ストーリーテリング 中国の小紅書ユーザーにとって「日本製コスメ」はそれだけで価値がある。特に以下の要素を含むストーリーが好まれる:
- 日本の職人技術(「京都の老舗が作った」)
- 日本限定の成分や製法(「日本酒由来の成分」)
- 日本の美容習慣(「湯治スキンケア」)
3. KOL(ワンホン)とのタイアップ 小紅書では、フォロワー1〜10万人のマイクロKOL(「腰尾部KOL」と呼ばれる)のエンゲージメント率が最も高い。以下の基準でKOLを選定する:
- フォロワーの年齢層がターゲットと合致しているか
- 過去3ヶ月の平均エンゲージメント率(3%以上が望ましい)
- 過去に競合他社の製品を紹介していないか(排他性)
両方を連携させるクロスボーダーコスメ戦略
連携のパターン
もっとも効果的なのは、LIPSと小紅書を相互補完的に運用することだ。以下の3パターンが実戦で成果を上げている。
パターンA:LIPSで検証 → 小紅書で拡大(新製品投入時)
新製品の発売時に最初にLIPSで口コミキャンペーンを実施。LIPSで高評価(★4.0以上、レビュー数50件以上)を獲得した実績をもとに、小紅書で「日本で大人気のコスメ、ついに中国上陸!」というストーリーで展開する。
事例:某日本のオーガニックコスメブランドは、2025年にこの手法で中国市場デビュー。LIPSで3ヶ月間口コミを集め、その後小紅書でKOLとタイアップ。結果、天猫旗艦店オープン初月で売上1,200万円を達成した。
パターンB:小紅書でトレンド把握 → LIPSで日本市場投入
小紅書で中国市場で人気の成分やテクスチャをリサーチ。そこで得たトレンド情報をもとに、日本で新製品を開発し、LIPSで先行販売する。小紅書のデータは3億人以上のユーザーのトレンドを示すため、日本の消費者動向とは異なる視点が得られる。
実際に、小紅書で「Cica(ツボクサエキス)」ブームが発生した半年後、日本のLIPSでもCica配合製品の検索が急増した。この時差(タイムラグ)を活用すれば、日本市場でのトレンドを先取りできる。
パターンC:小紅書の日本人ユーザーをハブにしたクロスボーダー展開
小紅書には約30万人の日本在住中国人ユーザーが存在する。彼らが日本のコスメを小紅書でレビューすることで、中国本土ユーザーにリーチできる。この「現地レポート型」コンテンツは信頼性が高く、商品の本物感を伝えられる。
施策例:「日本在住中国人インフルエンサー」にドラッグストアで実際に購入してもらい、その場でレビュー動画を撮影。レシートも掲載することで「本物・実際に購入した」という信頼感を強化する。
運用上のベストプラクティス
LIPSに特化すべきケース:
- 日本国内だけで販売するコスメブランド
- 10代〜20代前半をターゲットにしたプチプラコスメ
- 製品の口コミ数を短期間で急増させたい場合
小紅書に特化すべきケース:
- 中国市場への本格進出を目指すブランド
- ミドル〜プレミアム価格帯の製品(小紅書ユーザーは単価が高い)
- スキンケア・機能性化粧品(小紅書で情報検索行動が活発)
両方に同時投資すべきケース:
- 中国市場での本格展開と日本市場での存在感強化を同時に行いたい
- 年間マーケティング予算が500万円以上確保できる
- 両方のプラットフォームに専任担当者を配置できる
避けるべきミス
ミス1:同じコンテンツをそのまま使い回す LIPSの口調(「コレやばい!」「神コスメ」系の若者言葉)と小紅書の口調(「真的好用!」「必入!」系の親しみやすさ)は異なる。同じ製品紹介でも、プラットフォームごとに文体を変える必要がある。
ミス2:小紅書で「コスメ情報だけ」を発信する 小紅書は生活全般のプラットフォーム。コスメだけのアカウントは成長が遅い。スキンケアの前後に「簡単ヘアアレンジ」「週末のお出かけコーデ」など、関連するライフスタイルコンテンツも交えることで、フォロワーの獲得スピードが向上する。
ミス3:LIPSのレビューをそのまま機械翻訳して小紅書に投稿 LIPSのレビューは日本の若者言葉で書かれている。これを機械翻訳すると、中国語として不自然で、小紅書ユーザーの心に響かない。小紅書用にはゼロベースで中国語のコンテンツを用意するか、AIによるリライトを徹底する。

左が日本のLIPS、右が中国の小紅書。同じコスメ口コミでも、プラットフォームの特性とユーザー層によって求められるコンテンツの質が異なる。クロスボーダー戦略では両者の違いを理解した上で、使い分けることが鍵となる。
まとめ——LIPSと小紅書、どちらを選ぶべきか
「LIPSか小紅書か」という二者択一ではなく、ブランドのフェーズに応じた使い分けが重要だ。
スタート期(日本発売から1年以内): LIPSに集中。日本国内の口コミ基盤を構築し、製品の品質を証明する。
成長期(日本で一定の評価を得た後): 小紅書に拡大。日本の評判を材料に、中国市場向けに最適化したコンテンツを展開する。
安定期(両市場でブランドが確立した後): LIPSと小紅書のデータを連携し、相互にトレンド情報をフィードバック。クロスボーダーでのブランド価値を最大化する。
2026年現在、日本のコスメブランドでLIPSだけを運用している企業はまだ多い。しかし、中国市場への扉を開くためには、小紅書での展開がもはや選択肢ではなく必須になりつつある。LIPSと小紅書、この2つのプラットフォームを理解し、戦略的に使い分けることが、2026年の越境コスメビジネスの勝敗を分ける。
